「あ、はい。わかりました。えっと、場所はここで・・?」
ほなみが紙を見ながら沙良に問いかける。
「いえ、ここだとごちゃごちゃになってしまう可能性があるから、
ほなみちゃんは隣の部屋で。あとであたしも行くから」

沙良が言うとほなみはうなずいて部屋を出て行った。

「さて、じゃあやりましょうか。」
沙良がそう言ってくる。桜も緊張した面持ちでうなずいた。
「イメージトレーニングって言っても、一口にはあんまりわからないわよね?
だから今日はいろいろなことを考えてもらうわ。」

「いろいろ、ですか。なんとかがんばります・・」
自信がなさそうに言う桜に沙良は笑いかけながら、
「そんなに難しいことはしないわよ。とりあえず目を閉じてみて。」
沙良がテープをセットしながら言う。桜はそれに従って目を閉じた。
沙良はそれを確認すると、 「今からテープで音を流すね。どんな情景か、考えて教えて。」
そう言うとレコーダーの再生ボタンを押して、部屋中に音を流した。

最初に流れ始めたのは波の音。
「波打ち際・・です。ぼんやりと寄せては返す波を
見ているような感覚を思います」

「へぇ・・。じゃ、次はこれ。ね」
そしてぱちぱちというたき火の音や子供たちがわいわい騒ぐ音などたくさんの音が流れた。
そしてその音ひとつひとつに桜は自分なりの考えで答えた。
「ふぅん・・思ったより問題ないのね。あ、もう目を開けていいわよ」
沙良がテープを止めて巻き戻しをしながら桜に言う。
そして桜を座らせると、自分も座って先ほどのスコアを手に取った。
「桜ちゃんはいつも歌う時にどんなことを考える?。」
「う、歌う時ですか?えっと・・あんまり考えてないかもです・・」
桜が首をかしげながら言う。沙良は微笑みながら
「あはは、なるほどね
じゃ、桜ちゃんは『歌』ってどんなものだと思う?」

と桜に問いかける。桜は困った顔をしながら
「なんでしょう・・楽しむもの・・?」
と申し訳なさそうに答える。 「うん、確かに楽しむものでもあるわね。
でも、楽しむだけならカラオケでいいのよ。
桜ちゃんの場合気持ちがいまいち乗っかってないかな。
あたしなんかはそう思うけどね。」

「気持ち・・ですか?」
「そう。歌の上手、下手はもちろん声量や技術もあるわ。
でも、それ以前に問題なのは気持ち、感情がこもってるかどうか。」

「えっと・・ごめんなさい・・よくわからないです・・」
沙良もその桜の答えを予想していたのか、うなずくと 「たとえば、あたしがこの曲を歌うとするでしょ。
それだったらこの曲は『恋をしてる女の子』の詩よね。
だからあたしだったら好きな人を考えながら歌う。とか、
その人に想いを伝えるように言葉を音に乗せて紡ぐ。かな。
でも、桜ちゃんにはどうもそれが足りてないの。
声量はあるし、技術はまだいくらでも伸ばせるから。
あとは自分の気持ちを乗せられるかどうかよね。」

桜はその言葉を聞いて、うつむいて考え込んでしまったが、
顔を上げると立ち上がって
「先輩、もう一回歌ってみていいですか?」
沙良に向かって聞いた。沙良はにっこり笑ってうなずくと、
テープの再生を押した。
いつの間にかマスターテープに切り替わっていたのである。
そしてレコーダーから前奏が流れ出す・・・。
『この言葉を誰に伝えるか言ったら、当然アイツよね。
ここにはいないけど、告白するような気持ちで・・!』

そして再び部屋の中に桜の張りのある声が響き始めた・・


top

女の子お絵かき掲示板ナスカiPhone修理