「すまない・・もうアロエとは一緒にいられないんだ・・」

「どっ、どうして!?セリオス、アロエのこと嫌いになっちゃったの!?」

[違う、そんなのじゃない。でも、すまない・・。さよなら・・」

セリオスがアロエに背を向けて歩き出す。

アロエは走って追いかけようとするが、なぜか追いつかず差がどんどん広がっていく。

「やだよぉ!お別れなんてしたくないよぉ!!セリオス、せ〜り〜お〜す〜〜っ!!」

 

「セリオス!!」

叫ぶと同時にアロエはふとんから飛び起きた。

あわてて周りをきょろきょろと見渡す。

なんでもない。いつも通りのアカデミーのアロエの部屋。

「ゆ、夢・・・?」

アロエはそっとつぶやきながら自分が泣いていたことに気がつく。

「アロエは・・セリオスが・・大好き・・。でも、セリオスはどうなんだろう・・」

とめどなく流れてくる涙と抑えきれない不安の中でアロエは枕をぎゅっと抱きしめた。

 

「今日が課外学習でよかった・・」

アカデミーの教室に向かいながらアロエはつぶやいた。

普段ならセリオスが一緒にいないから淋しいと思う。けれど。

こんな顔をセリオスに見られずにすむから。見られたくないから。

教室の前まで来るとアロエはぶんぶんと首を横に振って、それから教室に入る。

「シャロン、ルキア、おっはよ〜♪」

「あ、アロエおっはよ〜・・って・・・どうしたの?」

「おはようですわ、アロエ。どうかなさったの?」

挨拶をしたルキアとシャロンが同時に聞いてくる。

アロエは目をぱちくりさせながらわからずに聞き返す。

「え?なんで?アロエがどーかしたの?」

「だって、ねぇ。シャロン」

「そうですわね。アロエ、今朝泣いたりしませんでした?」

アロエは二人の言葉に今度こそびくっと反応して、おずおずとうなずいた。

「やっぱりそうですの・・。授業が始まってしまいますから、またあとで聞いて差し上げますわ」

「あたしも力になれないかもしれないけど、聞くから元気出してね?」

二人の言葉にアロエはうなずくと、席に座った。

 

「屋上に行きましょうか。ここではいろいろと面倒になりかねませんし」

放課後になって、アロエとルキア、シャロンの3人は屋上へと向かった。

「それで?どうしたと言うのですの?」

誰もいない屋上のベンチにアロエを座らせて、シャロンが聞く。

「うん、あのね・・・実は・・」

アロエが顔を下に向けたまま、今朝夢見たこと、そして生まれてきた不安を話し出した。

 

「・・なるほど、事情はわかりましたわ。でも、これはセリオス自身に聞いてみないことには・・」

「そうね。でも、それだけ想えるアロエがうらやましいな〜」

ルキアの言葉にアロエが反応して顔を上げる。

「うら・・やましい?アロエが?どうして??」

「んー・・、ほら。知ってるとは思うけど、あたし、レオンのこと・・好きなんだよね?

でもアロエがセリオスに対してほどか。と言われれば自信ないもん」

恥ずかしそうに苦笑しながらルキアが言ってくる。

アロエがシャロンのほうを見ると、シャロンも「そうですわ」と言った感じでうなずく。

「でも、やっぱり聞くのは・・怖いよね・・」

しゅんと下をまた向きながらアロエがうな垂れる。

シャロンはそんなアロエの顔を覗き込むように見ると、声をかけた。

「大丈夫ですわ。少なくとも私からはセリオスが嫌ってるようには見えませんもの」

「うんうん。あたしから見てもそーだもの。大丈夫、大丈夫♪」

アロエはそんな二人を見て、こくこくとうなずく。

そしてベンチから立ち上がると空を見上げてつぶやいた。

「アロエ、セリオスのこと大好きだから。頑張らなきゃいけないよ・・ねvv」

3人はお互いを見て微笑みながらうなずいた。

 

「それじゃ、これでお開きですわね」

「うんっ!じゃあ、アロエ先に帰るね!ルキア、シャロン、本当にありがとぉ☆また、明日ねー♪」

にっこりと笑ってアロエが二人に手を振って屋上を後にする。

シャロンとルキアはそんなアロエを見送って、微笑むと

「アロエだけじゃなく私たちも頑張らなきゃいけないですわね、ねぇ、ルキア」

「そうね。お互い後悔しないようにしなくちゃ。ね、シャロン」

そう言って屋上をあとにした。

 

結構話し込んでいたせいか、やや暗くなってきて、周りにはもう生徒も少ない。

その中でアロエは寮への帰り道を歩いていた。

すると・・。

 

ぽつ・・ぽつ・・・

 

「ほえ?」

アロエが空を見上げると、空に広がるどんよりとした雲から雨が落ちてきていた。

少しずつ、だが確実に雨足は勢いを増し、本降りへと近づいてくる。

「あ〜・・。かさ、持ってくるの忘れてた・・」

そう。今朝天気予報で雨が降る。と言うのを見てたにもかかわらず、アロエは傘をもってくるのを忘れていた。

仕方がないのでとりあえずきょろきょろと雨宿りが出来そうな所を探して、急いで雨宿りをする。

濡れて行く地面を見ながら、アロエは大きくため息をひとつついた。

「早く帰って・・頑張ってセリオスに聞かなきゃいけないのに・・・」

少しまた不安になってきて、アロエはちょこんとしゃがみ込んだ。

すると視界に地面以外の物・・。誰かの靴が飛び込んできた。

「アロエ、どうしたんだ?こんな所で」

聞きなれた優しい声。アロエが立ち上がると、そこにはセリオスが立っていた。

「せっ、セリオス!?さっき教室にもいなかったし、もう帰ったんじゃ・・?」

「ああ、リディア先生にちょっと呼ばれていてね。職員室にいたんだ。傘がないなら入っていくかい?」

アロエにはもちろん断る理由なんてなく、「うんっ!」と大きくうなずいてセリオスと一緒の傘に入った。

 

しとしとと降り続く雨の中を二人は歩いていく。

普段ならにこにこと話しかけてくるアロエが黙っているのにセリオスは違和感を感じた。

少し見下ろすような感じでアロエを見ると、アロエは下を向きながら歩いていた。

「どうしたんだい?アロエ」

「う、ううん?なんでもないよっ?」

あわててぶんぶんと首を横に振って応えるアロエ。やっぱりどこかおかしい。

無理に聞くことも出来ないし、どう聞いたらいいかもわからないので、セリオスはそのまま歩く。

1分、2分・・・

沈黙の時間はさらに流れ、それに伴ってセリオスの不安もどんどん大きくなっていった。

 

「ねぇ・・セリオス」

寮がもう目の前に見えるところでアロエが急に立ち止まって、声をかけてきた。

「なんだい?アロエ」

「これって、『相合傘』って・・言うんだよね?」

「あ、ああ。そうだな。でも、それがどうかしたのかい?」

セリオスが聞くとアロエはまた黙り込んでしまった。

「・・アロエ、一体今日は何があったんだい・・・?」

この雰囲気にセリオスは耐え切れなくなり、アロエに問いかける。

それでもアロエは答えない。

このまま外にいても夜になってしまう。

「とりあえず僕の部屋に来ないか?このままじゃ風邪を引いてしまうし」

アロエに優しく問いかけるとアロエは小さくこくんとうなずいた。

 

「はい。とりあえずこれでも飲んで」

セリオスはソファにアロエを座らせるとティーカップにアップルティーを入れてアロエに渡した。

そして自分の分も入れるとセリオスもアロエの向かいに座る。

そのまま二人とも何も話さずに少しの時間がたった。

セリオスはただまっすぐアロエを見て、アロエはティーカップの中のアップルティーを見て。

ふと、アロエがティーカップをテーブルの上に置いた。

「セリオス、セリオスがアロエの前からいきなりいなくなることって・・・あるの?」

 

・・・?

僕がアロエの前からいなくなる?

大好きなアロエの前から、僕が?

 

「ど、どうしたんだい?そんなこといきなり・・・」

するといきなりアロエが立ち上がってセリオスに背を向けた。

「アロエね、今朝・・夢、見たんだ。いきなり・・アロエの前からセリオスが・・いなくなる夢・・」

アロエは言いながら肩が震えていた。もちろん、その声も・・。

「呼びかけても、呼びかけても・・。追いかけようとしても追いつかなくて・・」

「アロエ・・・」

「起きてね、夢だってわかって・・すごくほっとしたの・・でも、すっごく不安になったの・・。

セリオスがいつかアロエのまえからいなくなっちゃうんじゃないか・・って・・・」

「アロエ!」

思わずセリオスが立ち上がって、アロエの後ろからアロエをぎゅっと抱きしめる。

アロエは振り返ると、その目には涙がたくさん浮かんでいてそのままセリオスの胸に顔をうずめた。

「アロエね、アロエねっ。セリオスが・・セリオスが大好きなのっ!だから、だからいなくなるなんて考えたくなくて、

でも、セリオスがアロエをどう思ってるかわからなくて、怖くて・・とっても怖くて・・」

だんだんと小さくなっていく声とセリオスの腕の中で泣き続けるアロエ。

とてもいじらしくて、可愛くて。こんなにも想われていたなんて気がつかなくて。

「・・すまない」

セリオスがつぶやくとびくっとアロエが顔を上げて、ぐしゃぐしゃの顔のままセリオスを見る。

「僕もアロエが、アロエのことが誰よりも好きなのに気がつかせてあげられなくて、不安にさせて。

大好きなアロエを置いてどこかにいくなんて考えられないし、絶対しない。だから・・もうそんな不安で泣いたりしないで」

セリオスはそう言いながらアロエのほほに流れた涙をぺろっと舌で拭い取った。

途端にアロエの顔が一気にぼんっと真っ赤に染まる。

そしてそのまま、またセリオスの胸に顔をうずめてしまった。

 

そのままどれくらいの時間が流れただろう。

10分かも、30分かもしれない。

だがセリオスにとっては、もう何時間もたったような感覚にとらわれていた。

「・・ねぇ、セリオス・・」

「なんだい?アロエ」

アロエがセリオスの胸から顔を上げると、そこにはセリオスの優しい笑顔が広がっていた。

「信じて・・いいんだよね?セリオスも、アロエのこと好きだって・・・」

「うん。信じてくれないと逆に僕が困る。本当にアロエが僕を好きなのか、ね」

セリオスの言葉にアロエはにっこりと幸せそうに微笑むと、セリオスから離れてまたソファに座った。

「アップルティー、冷めちゃったね・・・」

「入れなおすからいいよ。ちょっと待ってて」

そしてセリオスが新しいのを入れなおすのをじっとアロエはみつめた。

 

「はい」

新しくあたたかいアップルティーをセリオスはアロエに渡して、自分も座った。

「そういえばさっきなんで『相合傘』なんて僕に聞いたんだい?」

「あ、あれね?昔、アロエが聞いたことあるの。雨の日に、恋人同士がひとつの傘に入ること。って

でも、アロエとセリオスってそうなのかわからないし、不安だったし・・・」

言ってて恥ずかしいのか、顔を赤くしながらアロエが言う。

セリオスはそんなアロエを愛おしそうに優しく見つめた。

と、

「あー!もうこんな時間!?帰って宿題やって寝なきゃ〜!!」

いきなりアロエが大きな声を上げる。

それもそのはずだ。時計を見るともう10時を回っていたのだから。

アロエはソファから立ち上がると、ドアに向かって歩いた。

「心配かけさせちゃってごめんねっ♪」

「謝らなくていいよ。あんまり無理しすぎないように」

セリオスがそう言いながらアロエをぎゅっと抱きしめると、放してアロエと目線の高さを合わせた。

「おやすみ、アロエ。僕はちゃんとアロエが大好きだから、心配とかしないで」

アロエはセリオスの言葉に恥ずかしそうにもじもじしていたが、そのままセリオスの唇にキスをすると

「うんっ!また、明日学校でね♪おやすみなさいっvvアロエも、セリオスが大好きだよっ☆」

と言ってそそくさと部屋を出て行ってしまった。

 

一瞬セリオスは何が起きたか理解できていなかったが、

・・キス?

アロエが・・・僕にキス!?

そのままぺたんと床に座り込んでしまった。

どうやら今日は寝れそうもなさそうだ。まさかアロエがあんな大胆な行動をしてくるなんて・・・

 

一方のアロエも自分の部屋に戻ってきて、鍵を閉めるとそのまま布団の上に倒れこんでしまった。

もちろんアロエの顔はゆでだこのように真っ赤だった。

「えへへっ・・。アロエのファーストキス、セリオスにあげちゃった・・☆」

宿題はやってないし、今日は寝られないかもしれない。

でも、お互いの気持ちを確認できた今日はとてもアロエにとって幸せで、忘れられない記念日になった。


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