「はい、今日の授業はここまでね。ちゃんと復習しておくのよ?」
終業のチャイムと同時に、教壇にいたリディア先生がぱたんと教本を閉じながら言う。
その途端に教室の中が一気ににぎやかになる。
「ほら、アロエ、今日はお買い物して行くんでしょー?」
教科書などをかばんにしまっている最中のアロエに、ルキアが近づいて話しかける。
「あ、うんっ。ちょっと待っててー、すぐ準備するからっ!」
アロエは微笑みながら、それでも手を少しだけ早く動かして急いでかばんの中に物をしまっていく。
「はいっ。お待たせー☆」
かばんを持ったアロエが立ち上がって、教室のドアの所にいたルキアとクララ、そしてシャロンの3人の所へ行く。
「はいっ、それでは、行きますか」
「そうですわね、遅くならないうちに行きましょう」
そうして4人はアカデミーをあとにして、街へと向かう。
「うー・・・あれ、かわいかったなぁ・・。どうしよう・・・買おうかなぁ・・」
ひとしきり買い物が終わって、4人でファーストフード店に入って、休憩をしていた時。
アロエが考え込むような顔をしながら、レモンティーに口をつける。
「どうしましたの?アロエ」
「ううん、さっきのお店で売っていた小物入れ、かわいかったから・・・」
アロエの言葉にシャロンは少しいたずらに笑うと
「セリオスにでもプレゼントしますの?」
アロエはその言葉に思わずむせてしまい、ごほごほとせきをした。
「し、シャロンっ!そんなことないもんっ!!」
店内にいる人に気づかれないように、3人に聞こえるくらい小さな声でアロエは反論をする。
だが、ある意味その反論は逆効果だったようで、ルキアとシャロンが微笑みながらアロエを見てくる。
「そうだよねー。アロエはセリオスに片想いだもんねー」
ルキアが意地悪そうに言って、アロエの顔がさっと朱に染まる。
「で、顔を赤くするのはいいのですけれど、そのままでいいんですの?」
「でも、アロエ・・セリオスに告白なんて出来ないし・・・」
シャロンの言葉にアロエはしゅんと下を向いてしまう。
そう、アロエは同じクラスメートのセリオスのことが好きだった。だが、なかなか言い出せずにいたのも事実だった。
「それでしたら、少しでもセリオスと接点を持ってみてはいかがかしら?」
「接点・・?セリオス・・と・・?」
「そうですわ。例えば、授業でわからないところがあったらセリオスに聞きに行って教えてもらうとか。
いろいろ考えられるはずですわ」
シャロンの言葉に、ルキアやクララもうんうんとうなずく。
「あっ、それだったらアロエにも出来るかもっ!うまくいけばセリオスと一緒に勉強も出来るもんねっ♪」
アロエもそんなシャロンたちの言葉に刺激されたのか、、少し元気になった。
「さて、それじゃ遅くなる前に帰ると参りましょう」
シャロンの言葉を合図にして、4人は店を出ると、寮に向かって歩き出す。
「それじゃ、また明日ね☆おやすみなさーいっ」
唯一リディア寮のアロエは、分かれ道で3人に挨拶をすると、自分の部屋に戻った。
「明日・・セリオスに授業でわからないことあったら聞いちゃおうっと♪えへへっ」
上機嫌で部屋に戻ると、シャワーを浴びて制服からパジャマに着替ると、そのまま布団に入り込む。
「明日はいい日でありますように・・・☆おやすみなさいっ・・・」
誰に聞こえるでもなく、アロエはそう呟くと深い眠りへと落ちていった。
次の日、アロエは上機嫌でアカデミーに向かって、いつものように授業を受けた。
そして、授業でわからない所を教科書に印をつけておいていた。
いつも通りならセリオスは授業が終わると、図書室に寄って本を読んでから、帰るのをアロエは知っていた。
だから夕方になって、先にアロエは自分の部屋に戻ると、時計が7時くらいを回ったところで部屋を出て、
セリオスの部屋に向かうことにした。
コンコンとドアをノックする音がして、部屋の中にいたセリオスはいぶかしげな顔をした。
「はい?どなたですか?」
「あの、アロエ・・だよ・・・」
セリオスは一瞬何が起きてるか理解できていなかった。
クラスメートではあるけれど、ほとんど話したこともないアロエがなぜ自分の部屋に?
「アロエ?珍しいな。どうしたんだい?」
「あのね。今日の授業でわからないところがあって、ちょっと教えて欲しいかな・・って」
ドアの向こうから聞こえるアロエの声に、セリオスは椅子から立ち上がると、ドアに向かって歩く。
そしてドアを開けると、そこには教科書を両手で抱えたアロエがちょこんと立っていた。
「こ、こんな時間にごめんね?もしかして、アロエ邪魔だった?」
「いや、そんなことはない。さ、入って。そこでは教えられないから」
そう言ってセリオスはアロエを部屋の中に招き入れる。
アロエはそんなセリオスにうなずいて部屋の中に入ると、くつを脱いで、床に座った。
(わー・・・ここがセリオスの部屋なんだ・・・)
部屋の中はきれいに片付いていて、特に散らかった様子もほとんどない。
好きな人の部屋に入るのだから、アロエはすごくドキドキしていた。
「アロエ?」
「はっ、はいっ!?」
いきなりセリオスに声をかけられて、アロエは飛び上がりそうに慌てて反応をする。
「・・・で、どこを僕に教えて欲しいんだい?」
「あっ、あのっ、ここなんだけど・・・」
セリオスが少し呆れたように言って、アロエは慌てて教科書に印をつけたところをセリオスに見せる。
そしてセリオスとアロエの勉強会が始まった。
「・・こんな感じだけど、わかったかい?」
「うんっ!やっぱりセリオスって頭いいんだね・・・。アロエに教えるのも上手だし・・・」
勉強がひと段落して、セリオスがティーカップに入れてくれたあたたかい紅茶を飲みながら、ほうっとアロエは言った。
そして、ふと手を止めて紅茶を飲むセリオスに見とれる。
「・・ん?僕になにかついてるかい?」
その視線に気がついたのか、セリオスがふとアロエに問いかける。
「うっ、ううん。なんでもないから、気にしないでっ!」
アロエがそう言いながら、セリオスの部屋にある時計を見るとすでに時計の針は10時を回っていた。
「わっ、もうこんな時間・・・セリオス、ごめんね。アロエにつき合わせちゃって・・・」
「いや、それは別に構わないけど」
いつものような感情の読み取れない無表情でセリオスが答える。けれど、アロエはとても嬉しかった。
「それじゃ、おやすみなさいっ☆また、あしたね♪」
ぺこりとお辞儀をすると、そのままとたとたと走ってアロエはセリオスの部屋を出て行く。
本当はセリオスから「おやすみ」を聞きたいと思っていたが、それより一緒に勉強が出来たことが、
アロエにとってはとても嬉しい出来事だった。
それからほぼ毎日のようにアロエはその日の授業でわからない部分をセリオスに聞きに行って、
一緒に勉強をすると言うことをしていた。
毎日のように部屋に来るアロエを、セリオスは変わらない対応で迎える。
それでも、アロエの「おやすみなさい」にセリオスが返すことはほとんどなかった。
そんなある日、アロエは風邪を引いてしまって、アカデミーを休んでしまった。
「どうして・・・かぜなんかひいちゃったんだろう・・・」
アロエ以外は誰もいない自分の部屋。
布団の中でアロエは泣きそうな顔をしていた。
自分が風邪を引いたこと、それによってセリオスと一緒に勉強をすることが出来なくなってしまったこと。
「今日は・・・セリオスのお誕生日だったのに・・お祝い、してあげたかったのに・・・」
前もってアロエはセリオスへのプレゼントを買っていた。今はアロエの寝ているベッドの下にあるが。
ふと布団から時計を見ると、時計の針はもう9時を回っており、余計にアロエを悲しい気分にさせていた。
アロエは頑張って布団から少しだけ体を起こしてみる。
1日中寝ていた甲斐があったのか、朝は起き上がれもしない状況だったが、起き上がることが出来るくらいに回復していた。
「・・やっぱり、セリオスと会いたい・・。プレゼント、渡してあげたい・・・」
アロエはそう呟いて、誰となしにうなずくと、ベッドから降りて、下に置いてあったプレゼントを持って、
パジャマを着たまま、自分の部屋を出て、セリオスの部屋に向かった。
コンコンといつものように部屋のドアをノックする音がする。
セリオスはその音にドアのほうを向いたが、一瞬怪訝そうな顔をした。
「・・・アロエかい?」
「うん・・そうだよ・・・アロエだよ・・・」
ドアの向こう側からは聞きなれたアロエの声が聞こえる。だが・・・
「どうして僕の部屋に来たんだ?アロエは今日は風邪を引いてアカデミーを休んでいたし、勉強することもないはずだ。
それに、風邪だってまだ治っていないんだろう?早く自分の部屋に戻って休んだ方がいい」
セリオスはドアの外のアロエに冷たく言い放つ。
アロエからの返事はなく、セリオスはアロエが帰ったのかと思い、ドアを開けて確認をしようとした。
そしてドアを開けると、そこには小さな包みを持ったアロエが、廊下に倒れていた。
「アロエっ!?」
セリオスがアロエの顔を覗き込むと、その表情は真っ赤で、体全体にかなりの熱があるのがわかった。
倒れているアロエをほおっておくことは出来ず、セリオスはアロエの体を抱えると、自分のベッドの上に横にした。
それからタオルを水で濡らし、アロエのおでこの部分に乗せてやる。
「・・まったく。どうしてこんな状態で僕の部屋に・・・」
セリオスはそう言いながら、ふとアロエを横にした時にアロエの手から落ちた包みを見た。
「これは・・なんだ・・・?」
包みをよく見てみると、表面には「HAPPY BIRTHDAY セリオス」の文字が書いてあった。
セリオスははっとしたようにアロエを見る。だが、アロエは変わらず眠り続けていた。
そんなアロエを見ながらセリオスはとりあえずそれを開けようとはせず、アロエの顔の隣に置いて、
アロエが目を覚ますのを本を読んで待つことにした。
それからどれくらいの時間がたっただろうか。
「ん・・・」
アロエが小さく言った言葉と同時に目を覚ました。
セリオスはアロエを見ると、アロエと視線が合って次の瞬間アロエが布団から飛び起きた。
「えええっ!?い、いたっ・・・。あれ・・?ここ・・・」
「僕の部屋だ。アロエが僕の部屋に来て、いきなり倒れたから、とりあえずここに寝かせた」
飛び起きたことで頭が痛くなったのか、右手で自分の頭を抑えながらパニックに陥るアロエにセリオスが言う。
「あっ・・・ご、ごめんなさい・・・。アロエ、またセリオスに迷惑かけちゃったね・・・」
顔を真っ赤にしながら泣きそうになるアロエ。
「・・・どうしてそう風邪が治っていないのに僕の部屋に来たんだ?」
セリオスの言葉にアロエはびくっと顔を上げると、きょろきょろして時計を見て、またすぐに下をうつむいた。
「アロエ・・・?」
「もう・・・今日じゃなくなっちゃったね・・・。セリオスの誕生日だから、お祝いしてあげたくて・・・。
でも、倒れちゃったら、お祝いじゃなくて迷惑かけちゃっただけだよね・・・。ごめんなさい・・・」
アロエがぽろぽろと涙をこぼしながらセリオスに言う。セリオスはそんなアロエを見ながら、
さっきアロエの横に置いた包みを手に取った。
アロエはセリオスが自分が持ってきていた包みを手に取ったことに気がついて、
「あっ・・・それ・・・セリオスへのプレゼント・・・」
「これを僕に渡すために、無理をしたと言うのか?」
セリオスの言葉にアロエがしゅんとしながらうなずく。
「アロエ・・・セリオスのこと、好きだから・・・。お誕生日はお祝いして・・あげたくて・・・ごめんなさい・・・」
アロエの言葉に、セリオスはびっくりして、目を丸くした。
クラスメートではあるけれど、そんなに積極的ではないから目立つ方ではないアロエ。そんなアロエが自分のことを好きで、
プレゼントを渡すためだけに無理をして部屋にやってくるなんて、考えてもいなかったからだ。
そんなセリオスの考えはお構いなしに、アロエは自分が倒れてしまったこと、セリオスに迷惑をかけてしまったこと。
それはアロエにとってはとても悲しいことで、とめどなくこぼれる涙を必死に手でぬぐいながら、アロエは泣いていた。
セリオスはそんなアロエを少しの間見ていたが、いきなりアロエのことを抱きしめた。
「ふえっ!?せ、セリオス・・・!?」
アロエが慌てる声がセリオスの耳に届く。そして、セリオスは抱きしめていた手を解くと、アロエの顔を正面から見た。
「せ、セリオス・・・?どうしたの・・・?」
そんなアロエの言葉には耳を貸さず、セリオスはふっと左手を上に上げる。
アロエが叩かれるという恐怖にびくっと身をすくませると同時に、セリオスは左手を優しくアロエの頬に当てた。
「せっ、セリオスぅ・・・」
「黙って」
その言葉にまるで金縛りにあったかのようにアロエが体を硬直させる。
次の瞬間、セリオスはアロエの唇に、自分の唇を重ねていた。
お互いが目を開けているため、セリオスの目にはびっくりして目を大きく見開くアロエが。
アロエの目には、セリオスのきれいな緑色の双眸が映っていた。
そして同時にアロエの全身から一気に力が抜けて、アロエはふにゃっとなってしまう。
セリオスはそんなアロエから唇を離すと、
「・・・全く。アロエの気持ちは嬉しいが、アロエは僕を心配させたいのか?」
そう、誰にも見せた事のない、もちろんアロエも見たことのない優しい表情でアロエに言う。
脱力しきったアロエが反応を返せずにいると、セリオスはそんなアロエをわかっていたのか、
「次にこんな事をして、僕を心配させたら・・おしおきだからね?」
フッと笑って優しく言うと、再びアロエの唇にキスをした。
今回の小説は・・・なんかあっさり書けました(笑)
アロエがセリオスを困らせたと同時に、セリオスもアロエを困らせて。
でも、結果的にはらぶらぶだと言う私らしい路線になったのかな。とも思います。
とはいえ・・私の小説のラストはとことんキスですね(@゜▽゜;Aアセアセ・・・
「あんまりくっつきすぎるのはよくない!!」とかいろいろ言われてしまいそうですが・・・。
どうか多目に見てくださるとありがたいです・・。
最初は「この二人の様子を寮内の巡視に来ていたリディア先生が魔法で覗き見て、『若いっていいわねー』」
見たいな感じにしようかと思ったのですが、なんだかクレームが飛んできそうなのでやめました(笑)
その辺の設定を読みたいという方がもしいらっしゃれば、私に言ってくれれば秘密裏に書きますよ?ええ(微笑)
それでは、読んでくださり本当にありがとうございました☆
Februry 24th PM20:11
Presented By Yuki Kusakabe