「お姉ちゃん、どう?似合う・・かな?」

まだあどけなさの残る少年、ユウが不安げに背中や腕とかをきょろきょろと見ながら言う。

「大丈夫よ、ちゃんと似合ってるわ、ユウ」

そんなユウを見ていた女性、サツキがにこやかに笑いかける。

マジックアカデミーの入学式の当日。

ユウはまだ真新しい制服に袖を通して、少し照れ笑いをしていた。

そんな弟の晴れ姿はサツキにとって、なんだか懐かしくて、またサツキ自身も少し緊張するような感覚を与えていた。

「大丈夫?忘れ物なんてないかしら?」

「大丈夫だって。昨日だってあんなに確認したじゃないか。僕だっていつまでも子供じゃないんだよ?」

「それもそうね・・。さて、それじゃ行こっか」

サツキの言葉にユウはうなずいて、二人でそろって家を後にした。

 

マジックアカデミー。

『賢者』を目指す生徒たちが集まる学校である。

ユウは今日から新しい生徒として。サツキは賢者であり、今まで通りにさらに上を目指すためにアカデミーに通っていた。

「やっぱりちょっとだけ緊張するね」

ユウの言葉にサツキがにっこりと笑う。

「それはそうよ。私だって入学する時には緊張したもの」

「僕も・・お姉ちゃんみたいに賢者に、なれるかな?」

「大丈夫。ユウはきっと私より素質あるから。私がなれたんだから、大丈夫よ」

サツキの言葉にユウが安心したのか、ほっとしたような顔をする。

その時はサツキもユウも、あんなことになるなんて考えてもいなかった。

 

それから少しの時が流れて・・・。

「はい、アメリア先生」

職員室を訪れたサツキが、持ってきていた書類をアメリアに手渡す。

「いつもいつも悪いわねー、サツキさん。大変じゃなかった?」

「いえ、思ったより大変じゃなかったですね。それよりユウはどうです?」

少し心配そうにたずねるサツキに、アメリアがにっこりと笑う。

「ああ、ユウくんね。クラスの中でも結構優秀だし、いい子だわ」

「よかった。何か粗相をしてないか心配だったんです」

そんな感じで普通にアメリアとサツキで笑いあっていた時に、いきなり大きな爆発音が響いて、アカデミーに振動が走った。

「な、何が起こったのっ!?」

思わずアメリアが大きな声を上げて立ち上がる。

それと同時にフランシスが職員室のドアを思い切り開けて、走りこんできた。

「大変だ!アメリア先生、サツキくんも!!」

「いったい何があったのです?」

「修練生のクラスで、魔法が暴走して、大爆発を起こしたんだ!」

フランシスの言葉にアメリアが、サツキが絶句をする。

「修練生クラス・・?ユウっ!?」

サツキが弾かれた様に走り出して、職員室を飛び出す。

「サツキさん!?・・・こうしてはいられません!フランシス先生、行きましょう!!」

そんなサツキの後を追うように、フランシスとアメリアも職員室を飛び出した。

 

サツキは全速力でアカデミーの中を走っていた。

その途中で、他の生徒たちが外に出ようとしているのとすれ違いながら、いまだに黒煙が立ち込める教室へとひたすらに向かう。

もうもうと立ち込める煙に覆われた教室の中へサツキは足を踏み入れて、その場に唖然と立ち尽くした。

教室の中では、ユウが仰向けになって倒れていた。

暴発事故の影響か、右腕は肘から先にかけてなくなっており、全身もあちこち焦げたような状況になっていた。

「ユウ!ユウっ!!」

サツキが慌ててユウのもとに走り寄り、その体を抱きかかえる。

しかし、ユウからの答えはなく、サツキはユウが息をしていないのに気がついた。

「どうして・・・どうしてっ・・・・!?」

サツキはぽろぽろと涙を流しながら、変わり果てた姿になってしまった弟にすがりついた。

そうしていると、教室の中にアメリアとフランシスが入ってくる。

「サツキさん!怪我をした生徒は・・・っ・・・!」

アメリアが言いかけた言葉を途中で止め、フランシスは何も言わずただサツキのほうを見ていた。

「サツキさん・・・」

サツキはアメリアたちのほうは向かず、ただユウの亡骸を抱きながら、うつむいていた。

だが、アメリアがサツキに近づこうと一歩を踏み出した途端に激しい衝撃がアメリアの体に走った。

「サツキ・・・さんっ!?」

アメリアの言葉に、サツキがユウの体を抱えたまま立ち上がる。

そして、サツキがアメリアたちのほうを振り向く。

その顔はとても淋しそうで、またひどく申し訳なさそうな顔をしていた。

「アメリア先生、フランシス先生。ごめんなさい・・。もし、私に何かあったら、あとのことはお願いします・・・」

サツキはそう言うと、再び二人に背を向けて、ユウの身体を床に置いた。

アメリアとフランシスは、サツキとユウの周りに張り巡らされた結界によって、それ以上踏み込むことが出来ない状況だった。

「ごめんね、ユウ。お姉ちゃんが今、助けてあげるから・・・」

床に寝かされたユウの顔を見ながら、サツキはつぶやく。

そして、両手を横に水平に伸ばして、すっと目を閉じて、その唇から言葉が紡ぎ出される。

「セリュヌ・クォワール・ヴィス・クォート・フェデク・キトヴィアニュス・フィヴィス・

(全ての源なる神々よ、全ての始まりたる精霊達よ)

リーツェニア・メルヴン・トゥウェル・ヴァイフェ・エルージュ・シアラート・・・」

(我に声に耳を傾け、遙かなる時空を越えて届きしこの叫びに応えよ)

サツキの言葉が紡ぎだされていくと同時に、ユウの身体に少しずつ小さな光が集まり始める。

「・・この言葉は・・・サツキさん!?いけない!その禁術は・・!!」

だが、その魔法の中身を知ったアメリアが悲鳴にも似た叫び声をあげる。しかし、サツキはそのまま詠唱を中断することなく、言葉を続けた。

アメリアやサツキたちが使う魔法は、その効力が大きくなれば大きくなるほど、言葉の詠唱は長くなる。

また、本来は威力の小さい魔法でも、その言葉を。つまり発動への儀式を高い領域に置くことによって、その威力を大きくすることも可能だった。

「ミューレス・ヴァルティード・トゥワィケルツ・メルヴェイユ・メルロード・オズ・

(空を照らせし光よ、夜を彩りし夜色の闇よ、そして彷徨える魂よ)

ワルトワード・アロス・レキア・ヴァイフェ・エルージュ・フィリーズィアラート・・・」

(雨を再び空に、遙かなる時空を今ここに、全ての摂理を、その理を・・・)

小さな光はやがて大きな光に変わり、ユウの身体はその光に包まれて床から浮かび上がる。

サツキはだんだんとその呼吸が荒くなり、額には大きな玉の汗が浮かんでいた。

(もう少し・・・大切な家族を・・ユウを・・守れなくて賢者なんて意味が・・・ない。

だから・・・もう少しだけ・・・)
「リスフェクティ・バジュス・オルスト・ギャム・ダカニラ・フェルペス!」

(今此処に於いて覆し、失われし命、失われた時を元に戻せ!)

そして目を開けて、まっすぐにユウを見つめると、サツキは最後の言葉を紡いだ。

「リュミエール・ソウルリターニア!」

その言葉と同時に、ユウの身体が。そしてサツキの身体も。

サツキの結界内で光が弾け、アメリアとフランシスの視界は白で覆われた。

光が収まると、そこにはユウの上に重なるように倒れていたサツキの姿があった。

慌ててアメリアが近寄り、サツキを抱きかかえるが、その心臓は止まっていた。

そして、ユウは失われていたはずの右腕は元通りに戻っており、やけどの跡も、まるで何事もなかったかのようになっていた。

「う・・・ん・・・?」

それと合わせるようにしてユウが目を覚まして、起き上がる。

「あれ・・?アメリア先生・・それに、フランシス先生・・・」

ユウはきょろきょろとしながら、自分に何が起こったかわからないような、きょとんとした顔をしていた。

「ユウくん・・・」

「・・・あれ?どうして・・お姉ちゃんが二人いるの・・?」

ユウの言葉を二人はすぐには理解することは出来なかった。

「よかった・・・ユウ、ちゃんと戻れたんだね・・・」

耳に届いたサツキの声に、ユウが振り向き、そしてアメリアが驚いた顔をして声がしたほうを向いた。

そこには確かにサツキの姿があったのだが、その姿は宙に浮いており、まるで幽霊のような状態だった。

「お姉ちゃん・・・?どうしたの・・・?」

「ユウ、あたしは、ユウを助けようとしたらこうなっちゃったみたいなの。仕方ないよね。アカデミーで禁じられている禁術を使っちゃったんだから」

サツキの声にアメリアがサツキの身体を抱えていた手に力を少し入れて、悔しそうな顔をする。

「じゃあ・・お姉ちゃんは、元には、戻れないの?」

「ううん、ユウがいつか賢者になって、私をもとに戻すことが出来たら、戻れるわ。大丈夫。あなたはきっと私より素質があるから、きっと賢者になれる」

言いながらサツキは、優しく子供をあやすようにユウのほほに手を触れる。

サツキの手の感触は感じられなかったが、確かにユウはその温もりを感じたような気がした。

「うん・・わかった。僕、約束するよ。必ず賢者になって、お姉ちゃんを元に戻してみせる。だから・・・だから、待ってて」

ユウの言葉にサツキはにっこりと笑うと、アメリアの近くに移動して、

「アメリア先生、ごめんなさい。勝手に禁術を使ってしまった上に、こんな姿になってしまって」

しかし、アメリアはそんなサツキに首を横に振った。

「いいえ、サツキさん。私では、ユウくんを助けてあげることは出来なかったし、あなただから・・・出来たこと。きっと、いつかあなたがユウくんを助けたように、ユウくんがあなたを助けてくれると思うわ。それまではちゃんと私が頑張って教えるから」

「じゃあ、そのあたしの身体、申し訳ないのですが魔法で保存して置いてください・・・」

「ええ。女の子の身体ですものね。ちゃんと戻った時に今の状態でいられるように、私が保証するわ」

サツキはふっと笑って、そのままフッと消えて、火の玉のような感じになった。

 

「まあ、こんなことがあって、お姉ちゃんが幽霊になっちゃったんだ・・・」

アカデミーの生徒の中で唯一サツキの姿が見えたアロエにユウが説明をする。

「そうだったんだぁ・・・じゃあ、ユウくんはお姉さんを元に戻すために賢者になるんだね?」

アロエの言葉にユウがうなずく。

「まだ時間はかかるかもしれないけど、いつか、必ず僕の手で・・・」

それはまごう事なき少年の思いであり、遙かなる彼岸の誓いであった。

 

 

あとがき

 

よんでくださりありがとうございましたー^^

今回は「完全版魔法詠唱」を考えていたので、ちょっと苦労しましたw

公式設定に・・できたのかな?

まあ、不安はいっぱい残りますがw

ともあれ読んでくれたあなたにただひたすらの感謝です。

ありがとうございました☆

それでは、次回作のあとがきでまたお会いしましょう♪

 

March 23rd Am 016

Presented by Yuki kusakabe

 


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